平成4年 資源動物科 卒業 中山 宏幸さん はじめまして、1992年に農芸高校資源動物科を卒業しました中山宏幸と申します。卒業後は天王寺動物園で飼育員として働き約30年になります。まず始めに担当した動物はカバでした。高校時代に牛や豚は身近な存在だったので、ある程度の大きさの動物には慣れていましたが、3tもあるカバは規格外でした。非常に縄張り意識の強いカバは新米飼育員の私を侵入者扱いしプールの中から睨んでいました。そして私が油断をしてしまいテツオ(雄カバの愛称)に背を向けて掃除をしていると、突然バシャーと水しぶきが上がったのです。びっくりして振り向くとテツオが猛ダッシュで突進してきました。私も走って2~3メートル程ある堀を飛び越えて来園者側に逃げ込み間一髪のところで助かり、お客さんの前で苦笑いしたのを覚えています。高校1年生の時に、気の強い羊に背中を向けて突き飛ばされて懲りているはずなのに。在校生の皆さんも動物には背を向けないように気を付けてくださいね(笑)。

 

    

 

中学時代の私は上下関係の厳しい超体育会系のラグビー部に入っていたので、農芸ではクラブ活動をせずにのんびり過ごそうと思っていました。ところが入学してしばらくたったある日、怖そうな先輩たちが教室に入ってきて「中山っておるかー?」と同級生に聞き、私の方へ近寄ってきて「ラグビーしてたらしいやん、一緒にやれへんかー」と言い出したのです。私は断ることができず「じゃあ見学だけ」と放課後グラウンドに向かいました。そこには私の中学時代とは全く違う光景が広がっていました。先輩たちは笑顔で楽しそうに楕円球を追いかけています。私はその姿を見てもう一度ラグビーをしようと心に決めました。一人では心細いので同級生を数人誘って入部することにしました。そこからラグビー部の仲間と顧問の先生との思い出深い農芸生活がスタートしました。先生からは人間関係の大切さを教わってきたので社会に出でから本当に助かりました。今の自分があるのは先生のお陰だと感謝しています。

3年間の楽しい農芸生活はあっという間に過ぎてしまいました。グラウンドではラグビーボールを追いかけて、部室ではみんなでワイワイ楽しんで、休みになってもラグビー部のメンバーやクラスメイトと遊んでいたのを思い出します。ちょっとここには書けませんが、やんちゃが過ぎて先生に迷惑をかけたり怒られたりしたことも(汗)。

卒業後はスポーツ関連の仕事に就きながら、飼育員を目指して天王寺動物園や京都市動物園を受けましたがどちらも落っこちてしまいました。どうしようかと悩んでいた時も先生が「諦めんと頑張れ」と励ましてくれました。3度目の正直で天王寺動物園に合格し飼育員として働く事になりました。初めはカバなどの大型草食獣をメインで担当し代番でヤマネコなどの肉食獣の世話もしました。数年に一度は担当動物の変更があるので、アシカやペンギン、ライオンやトラなど様々な動物を担当してきました。命を預かる仕事していると、病気などで亡くなってしまい辛い思いをする事もあれば、可愛い赤ちゃんが産まれて幸せな気持ちになる事もあります。

 

動物園には種の保存や調査・研究、環境教育など様々な役割りあります。現在私はクロサイの担当をしています。サイの角は高値で闇取り引きされるため密猟が後を絶えず絶滅の危機に瀕しています。そんなクロサイを守るため世界中の動物園が協力し生息域外保全の取り組みを進めています。天王寺動物園ではドイツ生まれのサミア♀と愛媛県生まれのライ♂との繁殖を目指しています。まずはペアリングが大変で、相性が悪かったら闘争が起きて大きな事故につながる可能性もあります。何度も柵越しのお見合いを繰り返し発情期のタイミングで初同居を試みました。こちらの心配も裏腹に2頭の相性はピッタリで楽しそうに走り回ったり、角を突き合わせて力比べをして遊んだりと闘争する事もなくうまく同居する事ができました。その後も発情期になると交尾行動を何度か確認しているので近い将来かわいい赤ちゃんが生まれてくる事を願っています。

 また環境教育として、園内での動物ガイドや小学生を対象としたサマースクール、大人向けの動物講話などを通じて生物多様性の必要性やSDGsの取り組みなどを動物園の立ち場から発信しています。

 近年、動物園でもアニマルウェルフェア(動物福祉)について話し合う機会が増えています。実際、クロサイの飼育においてもハズバンダリートレニンーグを取り入れて動物に苦痛を与えないように採血や体重測定ができるような取り組みも進めています。こういった話は畜産業界でも多く取り上げられていると思います。例えば養鶏場では、従来のバタリーケージからエンリッチドケージや平飼い飼育に切り替えるなど、動物に苦痛や不快感を与えず幸せに暮らせる環境で飼育されているかが問われる時代になってきています。畜産業界や動物園関係者はこのような課題を共有して進んでいく必要があると思います。

 

 農芸高校では持続可能な社会の実現に向けて様々な事を学んでいると思います。それぞれの科が自分たちの得意分野を伸ばして欲しいと思っていますし、3つの科がコラボレーションした取り組みにも期待しています。農芸祭で動物園との協同イベントなども面白そうですね。

 最後になりますが、農芸高校は時代の最先端を走っています。今、学んでいる農業や食品に関することはこれからの環境問題に大きく影響してくると思います。これから先、動物園と一緒に生物多様性の必要性やSDGsの実現に向けて考えてもらえれば幸いです。

 

P.S 在校生の皆さんは農芸生活を思いっきり満喫して最高の思い出を作ってください。たまには天王寺動物園にも遊びに来てくださいね。そして私を見かけた時は気軽に声をかけてくださいね。